標的化薬物輸送システムの開発(バイオジップコード)
薬物を特定の目的細胞にのみ届ける新しい輸送システム「バイオジップコード」の開発及び応用に取り組んでいます。現在の経口薬や注射薬は、体内のすべての細胞に作用し、治療したい細胞だけでなく、他の細胞にも影響を及ぼします。この問題を解決するために、標的とする細胞にのみ薬物を届ける方法が求められています。
バイオジップコードは、細胞に特有の住所コードを付与し、その細胞がコードを認識することで薬物を受け取る仕組みです。これは、地球上で住所録やGPSを使って荷物を届けるのと似ています。細胞を種類ごとに分類し、郵便番号のように7桁の特異的なアミノ酸配列を割り当てることで実現します。
アミノ酸は20種類あるため、20の7乗、約13億通りのコードを作成できます。この中から、目的の細胞だけが認識できるコードを選び出し、そのコードを薬物輸送担体に付与します。こうして、血管や髄液を通して運ばれた薬物が、目的の細胞にだけ届くようになります。
このシステムにより、副作用を最小限に抑え、より効果的な治療が可能となります。私たちは、バイオジップコードが将来的に医療の現場で広く活用されることを目指しています。
生体内ナノドローンによる特異的細胞標的化技術
ファージディスプレイ技術
ファジライブラリー・キットを用いて、生体内で特定の細胞を標的とするナノドローン技術の開発を進めています。このライブラリーには、全ての7桁アミノ酸の組合せが含まれており、目的外の細胞でサブトラクションを行い、上清を目的細胞に投与して特異的に接着するファージを選抜します。このプロセスを繰り返すことで、目的細胞に特異的な配列を得ることができます。
現在、ヒトでの実験は難しいため、マウスやサルを用いて研究を進めています。特に、痛みの中枢である脊髄後根神経節(DRG)神経細胞を標的とし、得られた7桁アミノ酸コードの有効性を確認しました。驚くべきことに、マウスで得られたコードはサルのDRG神経細胞とも反応し、種を超えた共通性が示されました。
ヒトにおいては、細胞バンクや培養細胞を活用することで、同様の研究が可能です。この技術により、体内の特定の細胞だけに薬物を届けることができ、まるで生体内を飛び回るナノドローンのように機能します。また、正常細胞と反応しない配列も得られるため、がん幹細胞を狙う新たな治療法の開発にも繋がります。
この研究は、13億通り以上の組合せから特異的な配列を選び出すことができるため、幅広い応用が期待されています。